『三国志外伝ー愛と悲しみのスパイ』街亭の敗北から物語は始まった

三国志を題材としたスパイサスペンス『三国志外伝 ~愛と悲しみのスパイ~』
(原題:風起隴西)。
このドラマの魅力は、三国志の表舞台で活躍した英雄たちではなく、その陰で活躍したスパイたちに焦点を当てた今までにない三国志のドラマだということです。
とても重厚なドラマに仕上がっていますが、少し難しいと感じた方もいらっしゃるのではないでしょうか?

特に第1章、街亭の戦いって?何が誤情報?
はじめの第1章から混乱し、視聴意欲がなくなってしまった方もいるかもしれません。
この記事では史実と照らし合わせてながらやさしく解説していきます。

「三国志外伝ー愛と悲しみのスパイ」の原題『風起隴西』から読み解くドラマの神髄

『三国志外伝ー愛と悲しみのスパイ』。
この邦題は、私は少し残念に思います。
なにやら軽めな歴史ドラマに感じてしまう。
この「三国志外伝ー愛と悲しみのスパイのスパイ」はもっと重厚な歴史ドラマ、ヒューマンドラマです。

邦題から想像するのは、スパイという仕事柄、恋に溺れることもできず、仕事に従事し逢瀬もままならない、そして悲しく別れがやってくる・・・。
そんな恋愛ドラマのようにも感じてしまいます。

でも原題『風起隴西』(Fēng qǐ Lǒngxī)
直訳すると「隴西に風が起こる」。
「風起」は風が吹き始めるということ、そして「隴西」は蜀漢の西の地域。主人公たちが活動する場所です。

つまり、スパイたちが活動し何かが起きる。
そんなことを意味しているのだと思います。

これは三国志の表舞台ではない「隴西」という場所でスパイたちが活動、彼らが三国志の歴史を動かし始める。
ですから、決して“愛”が一番のテーマではないと私は思います。

もちろん、そこにスパイたちの感情があり、愛情があり、悲しみがある。
そのことが彼らのスパイ活動に影響、そして世界を動かした可能性もあるでしょう。

でも、本質的には国の為に自分を犠牲に活動する、そんな男たちの熱い忠誠心と野望、そして正義が交差するドラマだと感じます。

そして、三国志といえば曹操や劉備が登場してきそうですが、このドラマではそうではない裏のスパイたちが主役。
この“風”とは影で動くスパイたちの静かな息遣い。

物語の冒頭で天水群守:郭剛(かくごう)が陳恭(ちんきょう)に
「隴西、起風了(隴西で風が吹いた)」とつぶやきます。
すべての始まりを象徴する一言です。

このドラマ、中国語タイトル『风起陇西』をそのまま『風起隴西(ふうきろせい)』というタイトルで上陸。
しかしテレビ放送では『三国志外伝ー愛と悲しみのスパイー』と何やらラブストーリー?とも思えるドラマチックなサブタイトルがつけられてしまいました。

確かにこのサブタイトルも魅力的ですが、原題の『风起陇西』に込められたメッセージを読み解きドラマ鑑賞するほうが、ドラマの魅力をさらに感じることと思います。
重厚な歴史ドラマ、ヒューマンドラマだと感じるはずです。

『三国志外伝ー愛と悲しみのスパイのスパイ』ドラマは誤情報の密報から始まった

「三国志外伝ー愛と悲しみのスパイ」は誤情報の密報から物語が始まります。
この誤情報がどれだけ、その先の流れを変えてしまったのか?国の運命を左右してしまったのか?
その重大さを感じとる必要があると思います。

物語の冒頭、諸葛亮孔明は北伐の為の作戦に頭を悩ましています。
いきなり渋いおじさまたちの集まり・・・。

「愛と悲しみのスパイ」の香りはしません。
おじさまたちが難しい顔で並んでいます。
諸葛亮孔明もちょっと地味な感じだし、何?と思いながらドラマ視聴を開始した方もいるかもしれませんね。

そして、そこの届いた1通の密報。
その情報をもとに立てた戦略。しかし、誤情報であったために失敗。
第一次北伐は失敗に終わります。

北伐のために大切な場所、“街亭(がいてい)”を失うのです。
そして、この敗北の責任を取って馬謖(ばしょく)は処刑されます。
なにやら思い空気が流れますね。
でも、それだけ重要な一戦だったのです。

この「三国志外伝ー愛と悲しみのスパイ」は、なぜ誤情報が送られてきたのか?
スパイである「白帝(はくてい)」の裏切りか?
白帝の義兄弟荀詡(じゅんく)が裏切った白帝「陳恭(ちんきょう)」を始末するよう命じられるのです。

“街亭の戦い”を敗北させてしまった密報。
このドラマを楽しむためには、この“街亭の戦い”を知っておくのが重要です。
ドラマを楽しめるかどうか左右すると思います。

「街亭の戦い」とは?歴史上の意味

では、この「街亭の敗北」とは、歴史的にどのような意味があったのでしょうか?
この敗北の責任をとり馬謖(ばしょく)は処刑されてしまいます。

時は3世紀、劉備も曹操もすでにこの世を去った後、劉備の遺志をつぎ、諸葛孔明は魏を倒し漢の復興を目指し北伐を開始します。

すでに蜀には三国志の英雄のであった関羽も張飛もいません。魏と蜀の武力の差、国力の差は明らかな時代になっています。
ですから情報は重要でした。
武力でかなわないなら知能で勝負。
諸葛亮孔明はこれまでも知力で貢献してきた天才軍師です。

そして、この蜀の命運をかけた戦い。「街亭の敗北」で大きな痛手を負います。
そして、全軍撤退することになり第一次北伐が失敗に終わるのです。

街亭を任されたのは若き将軍・馬謖(ばしょく)。
諸葛亮孔明はこの馬謖の才能を愛し大事にしていました。


しかし彼は諸葛亮孔明の指示を無視し、水のない山上に陣を張ってしまいます。
魏の将軍・張郃(ちょうこう)は冷静に水源を押さえ、蜀軍は渇きと混乱で壊滅してしまったのです。
山の上に陣を張り、逃げ場を失ってしまったのですね。

馬謖は才能はあったものの、思慮に欠け少し傲慢なところもあったようです。
劉備は生前、この馬謖の欠点を見抜き、諸葛孔明に彼を重用しにように言っていたようです。
ですから、馬謖を起用したのは諸葛亮孔明の痛恨のミスと言えます。

この「街亭の戦い」の敗北はのとの蜀の運命を大きく変えることになった。
そんな重要な一戦だったということを頭に入れながら「三国志ー愛と悲しみのスパイ」を楽しんでみてください。
きっと、新たな視点でドラマを楽しめると思います。

「街亭の戦い」『風起隴西』のタイトルの風

三国志に限らず、戦において情報は重要です。
ですから、スパイはいたともいえるでしょう。

しかし、史実においてはそのような情報はありません。
ないからこそ、スパイなのでしょう。
そして、表舞台には登場しない影の存在、影で国を動かす存在なのでしょう。

このドラマで気になるのは、「白帝(はくてい)からの誤情報」。

『三国志外伝 ~愛と悲しみのスパイ~』では、白帝から送られた密報が偽情報だったことで、第一次北伐の軍配置を誤り、“街亭”を失います。
しかし、史実ではそのような「白帝の誤情報」はもちろん登場しません。

史実でも馬謖は諸葛亮孔明の命令に背き、水のない山上に布陣する判断をします。
魏の将軍:張郃(ちょうこう)は水源を押さえたため、山の上に登ってしまった蜀軍は包囲され壊滅的な状況になりました。そして、諸葛亮孔明は全軍を撤退するしかなかったのです。

このあたりはドラマの中では詳しくは取り上げられてはいませんが、その後馬謖が処刑されるシーンはありましたね。
実際にも馬謖は処刑されました。

ドラマで描かれている誤情報は史実にはありません。
しかし、情報の読み違いはあったとされています。

北伐に関して、いくつかのルートがありました。
そのいくつかのルート、誰をどこに配置するか、“街亭”は要と言える場所であった。
そこに馬謖を配置するという過ちを犯した。
このことをドラマではスパイの誤情報が原因としたのですね。

密報では張郃の軍が街亭を通らず、他の道を通ることを伝えてきたのです。
諸葛孔明は自らが主力を率いて敵軍を迎え撃つ、念のために街亭を守ることを馬謖に任せたのです。

史実での戦局の読み違いや情報不足が敗北の一因だと言えることを脚本し、「誤情報を信じた結果、街亭が陥落した」という物語として描いています。
スパイたちの動きが歴史を動かした。
『風起隴西』なのです。

静かに“風”を起こす。
スパイたちの物語。

『三国志外伝ー愛と悲しみのスパイー』このタイトルも悪くはないと思いますが、少し軽めの印象になってしまう気がしませんか?
このドラマは歴史の裏側の、無名の者たちの国への思いから戦う姿、手に汗に握る心理戦。
戦場での熱き戦いに焦点があたる三国志とは一味違う三国志の世界。

実際はこうした影の存在が歴史が動かされていると考えると歴史も面白ですね。

このドラマ、確かに「愛」やスパイならではの「悲しみ」もあります。
それらもこの原題の意味や歴史的背景を深読みしていくことで、さらに感動することでしょう。
男たちの静かな戦い。
ぜひ堪能してみてください。

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